Tiny Garden の楽々人生

谷川和久が綴る 時系列を全く無視した 雑記(not 日記)の倉庫

こんな夜は

もう何年前になるのだろう。
昔、むかし、ずーっと昔、
ライヴ・バーをしていた時の話しである。
 
週末を中心に
アコースティック系のライヴを組み、
ライヴやイベントのない日は
バー営業をしていた小さな店。
 
その日は、
週の前半であっただろうか、
バー営業の日。
秋と冬の間位であっただろうか、
小雨の降るシケた夜。
僕はカウンターで一人、
ラジオの音楽を聴くともなく聴き乍ら、
お客さんが来るのを待っていた。
 
20時頃であったか?
ようやく扉が開いた。
ありがたい。
 
入って来たおっちゃんは、
(と云うか、ほぼ、おじいさん)
いきなり、
「マスター!
 今度の木曜、6人、予約いける?」
と、来た。
 
断る理由はない。
理由はない、が、
このおっちゃんに覚えがない(笑)。
 
まぁ、記憶は極端に弱い方なので、
(短期記憶がホントにヤバい…)
誰かのお客さんで来たのかも知れない。
 
カウンターの隅に座り、
麦焼酎のお湯割り。
 
お話し好きの様子で、
イロイロ話しをしてくれる。
 
若い頃のお話し、
管楽器をやっていた後に
キャバレーのバンドのボーヤをしてた、
とか、
「マスター、そのギター大事にしーや」
とか、
音楽に関する話題は多かったが、
やはり、全く記憶は蘇らない。
 
そもそも、「そのギター」と云われた
壁に掛かったアコースティックギター
何の謂れも思い入れもないギターだし。
(ギターくん、ごめんなさい)
 
30分位はいらっしゃったであろうか、
そろそろ帰るご様子。
 
さぁ、さてさて、ここからである。
 
「あ、前の店にカバン忘れてるわ」
ほー、それは困りましたね。
 
「五千円ほど貸してくれへん?」
今日、釣り銭、あまりないんですよ。
 
「千円でえーわ、あかん?」
いやー、無理です。
 
「ほなまた持ってくるから」
はい、お出口はあちらです。
 
「ごめんな
 今度の木曜、6人、頼むで」
 
お気をつけて、と、
エレベーターまでお送りした。
勿論、二度と来るコトはなかった。
 
元気にしてるかなぁ?
顔も覚えてないけれど。