タンゴ、の、本当の名前を僕は知らない。
そして、あんなに可愛い野良猫を僕は知らない。
居住している賃貸共同住宅の一階駐車場にて、
ビルの管理事務所の人達が野良猫を保護している。
そこに、二年前の、と或る冬の日、
新たに加わったのが、タンゴだ。
既に成猫と見える彼女は、
他の野良ネコさん達とは全く仲良くなれず、
人間にはがんがんに甘えてくる。
管理事務所のヒトによると、
耳にカットはなかったが、
避妊手術は済んでいた、とのコト。
つい最近まで飼い猫さんであったのだろう。
一体、何があったのであろう。
自由行動の飼い猫かとも疑ったが、
どうやらそうではなさそう。
人間への留保なしの甘えっぷり、
手術の件も含め、
きちんとした飼い主さんに、
きちんと愛されて、育って来たのであろう。
一体、何があったのであろう。
重ねて、気にはなるが、
その答えは、永久に、謎だ。
初めて、「タンゴ」と呼んだ日から、
「にゃー」と返事をしたタンゴ。
名前を呼び終わる前から、喰い気味に、
「にゃー」と返事をしたタンゴ。
寝ているトコロに近づくと、
振り向き様に、こちらの姿を確認もせずに、
「にゃー」と声も出さずに答えたタンゴ。
通りの向こうから、僕の姿を目指して、
お腹を揺らし乍ら駆けて来たタンゴ。
僕の太腿に乗っかり、
「寒いねん ぬっくしてくれや」
とコートに頭を突っ込んで来たタンゴ。
エレベーターの前まで着いて来て、
「一緒に乗ろか?」と訊いて来たタンゴ。
二年目にして、遂に、
他の猫さん達の輪に入ろうとしたタンゴ。
僕だけじゃなく、
近所の猫好きさん達の心を鷲掴みにして、
沢山のヒトに可愛がられていた、
会いに行ける野良猫、タンゴ。
タンゴ、ニャンニャーガへ発つ。
そこへゆけばどんな夢も叶うと云う。
ぬっくの国、ニャンニャーガ。
四年半後に又。