冬の或る日、
仕事用のメールアドレスにメールが届く。
見知らぬアドレスからの手紙。
件名はない。
開封すると、
こんな文章がたった一行だけ綴られていた。
「カラオケ音源の、参加も大丈夫でしょうか?」
最近の携帯電話のメールソフトや、
SNS経由のメッセージなんかだと、
「件名」の入力欄自体が最初からない、
なんて場合もあるようだ。
それは知っている。
それにしても、短い手紙だ。
行間を読むにも、一行では行間もない。
だが、ふむ、私も大人だし、なにより妄想は得意だ、
よし、想像してみるコトにした。
おそらくは、記載の質問は、
毎月第一土曜に行っているオープンマイク、
に関する質問であろう。
うん、まず、間違いない。
ふむ、経営難なのだ。
お客様は神様だ、と、誰かが云う。
他分、おそらく、パーハップス、メイビー。
早速、返信を綴らねばだだばだ。
件名を入れ、
本文の先頭に、〇〇さまと、入れる。
名前は不明なので、メールアドレス+さま、とした。
一行空けて、本文に移る。
まずは、はじめまして、から始まり、
こちらの店名と個人名を名乗り、
ご連絡を頂いたお礼も入れての冒頭の挨拶。
そして、本題、質問内容に対する質問を入れる。
文末の簡単な挨拶を添えて、本文を終え、
また一行空けて、署名を入れる。
本文中の本題内容を、
「オープンマイクに関するご質問ですか?」
と、わざと一行で済ませ、
他のトコはわざわざ雲古丁寧~に、と、
手紙の礼儀へのイヤミが伝わる程度には、
書いた、そのつもりだった。
すぐに返信が来た。
ずぼらではないようだ。
やはり一行だけの簡潔なメール。
「はい、オープンマイクです」
ふむ、イヤミは伝わらなかったようだ。
名前は名乗らない主義なのか。
挨拶はしない主義なのか。
宗教上の理由か。
誰か大事な親族からの遺言か。
僕は静かに、
その手紙を、
暖炉にくべる。
♪ 冬のある日
♪ 言葉のない手紙がキミに届く
(メッセージ・ソング by PIZZICATO FIVE)